第9章 官僚制分析の視座
1 官僚制の概念
フリッツ・マークス: @官僚制組織 A病理現象として批判される行動様式 B行政官僚制(=近代以降の
政府の行政組織) C官僚制支配や政治支配
官僚・官僚制ということばは18世紀末に生まれ、19世紀前半に定着
ヨハン・ゲレス :『ヨーロッパと革命』軍隊式の組織原理に立った文官組織、服従規範の組織外臣民へ
の強要、人間の価値を地位から評価
カール・ハインチェン :『プロイセン官僚制』独任制の官庁を長とする階層制構造の組織
ウオルター・バジョット:『イギリス憲政論』権力強化,業務拡大,人員増加を指向。政治の質を害し量を拡
大する傾向
カール・マルクス :『共産党宣言』『フランスの内乱』官僚制は廃棄・破壊されるべき
ミヘルス:社会主義諸政党や労働組合の組織内部における「少数支配の鉄則」。『政党社会学』
ウェーバー:大規模組織の官僚制化現象。『経済と社会』の「支配の社会学」。以後、官僚制概念変貌↓
@ 官僚制の概念が,政党・労働組合・教会、そして私企業の組織にまで適用。「行政官僚制に類似
のものがあらゆる社会組織に普遍化してきていることが新たに発見された」
A 民主主義の拡大深化現象(組織構成員・意思決定参加者・顧客の大衆化)が官僚制化現象を加速
・増幅。「民主化と官僚制は相携えて進むもの」とする見解
B社会主義体制の下での官僚制支配→「社会の近代化に付随する不可避の現象」とする見解
★ウェーバー「官僚制は純粋技術的に卓越しており、ある意味において合理的な性格をそなえている」
2 ウェーバーの官僚制論
家産官僚制:身分の不自由な官吏で構成(古代エジプトやオスマン・トルコの奴隷,中世の封建家臣団)
近代官僚制:自由な身分の官吏で構成=純粋かつ合理的な官僚制。ウェーバーは「組織の構造形態
のみならず、組織を構成している人材の任用方法に格別の重きを」おいた。
近代官僚制の構成要件:@規則による規律の原則 A明確な権限の原則 B明確な階層制構造の原
則 C経営資材の公私分離の原則 D官職専有の排除の原則 E文書主義の原則(以
上、官僚制組織内の意思決定と情報伝達の仕組みを規律する原理=官僚制組織の形成
原理) F任命制の原則 G契約制の原則 H資格任用制の原則 I貨幣定額俸給制
の原則 J専業制の原則 K規律ある昇任制の原則(以上、現代公務員制の構成原理
である人事制度に関する諸原則)。
@〜Kは近代官僚制の行動についての予測可能性と非人格性を創り出すための不可欠
要件
近代官僚制:「官吏制ないし公務員制に支えられた、あるいはこれに類似した人事制度に支えられ
た公私の官僚制組織」
官僚制組織 :「独任制の長を頂点にしたピラミッド型の階層制構造をもち、その作動が客観的に
定められた規則と上下の指揮命令関係とによって非人格的に規律されている組織」
社会組織一般の官僚制化、官僚制組織の発展に注目。何故?↓
合議制構造の組織は意見・利益の摩擦・衝突・対立、妥協、業務遅延、決定の統一性・安定性の
欠如。それに比して官僚制構造の組織は摩擦なし、的確・迅速・慎重、統一性・安定性
☆純即物的な事務処理=非人格化、公平性
☆永続性:御用立て自由の精密機械。例えば、占領統治の装置
しかし,これに止どまらず、官僚制の権力的地位は他に卓越=知識・情報・意図の独占と秘匿を
通しての優越的地位→官僚制がその他の組織を駆逐
3 ウェーバー以後の官僚制論
「官僚制はほんとうに合理的な存在か」をめぐって収斂。しかし、
@ ウェーバーは事実認識として官僚制の発展は不可避の現象だとし、価値評価の次元では人間の自律性
を阻害すると捉えた。
A「ウェーバーは、官僚制は何故に不可避的に発展するのかという点を問題にしていたからこそ、敢え
て官僚制の合理的な側面を摘出してみせた」→「官僚制の発展はウェーバーのいうようにほんとうに
不可避の現象か否か」?→
☆「官僚制化は、ある種の環境条件の変化またはそれ自身の機能障害の故に、一定限度以上には
進まなくなるであろうことを、あるいは官僚制は、その環境との不適合または内部矛盾の故
に、やがて脱官僚制化を始めるであろうことを、論証してみせなければならない」
ラインハルト・ベンディックス,ピーター・ブラウ,ロバート・マートン:官僚制における非合理的な人間行動に着目
@官僚制の職員は「歯車」には成り切れず A機能障害現象は、インフォーマル組織とフォーマル組織との機能的噛
み合わせによりある程度回避可能 Bもっぱら官僚制内部の支配関係に関心 C官僚制の合理性
(顧客の観点からみた官僚制の行動の予測可能性、非人格性)ではなく、機能性・能率性(官僚
制の行動がその組織目的の達成にどの程度まで寄与しているのかいないのかという、官僚制の側
に立った規準)を問題
○ウェーバー以後の官僚制論は官僚制組織の集団行動の動態をめぐる多くの認識枠組みを提供↓
第10章 官僚制組織の作動様式
1 課題・環境と組織形成の類型
軍隊:官僚制組織の一方の極。「命令系統の一元化」の原理(一本の情報伝達経路における情報の
下降・上昇)。意思決定機能の徹底した集権化。直属の上官の指示・命令には絶対服従。駐
屯基地に分散割拠。外界からの閉鎖性→軍事クーデタ、命令系統切れやすい
行政官僚制組織:各省庁による行政事務の分担管理。省庁内各局各課の所掌事務。行政組織「どの
レベルでも、異なった課題を託された複数の並立的な単位組織が緩やかに連合」=複合組織
命令系統:課長は官房人事課,官房会計課,官房文書課からの指揮監督。外部の官房系組織であ
る人事院・総務庁人事局、会計検査院・大蔵省主計局または理財局、内閣法制局・総務庁行
政管理局または統計局からの指揮監督。他の課との合議など→「行政機関の情報伝達経路は
縦横無尽の網の目状」。意思決定の分権性(立案は主管課に委ねられることも)
軍隊―警察―海上保安―消防:「制服組」。比較的に単純明快な、しかし達成困難な目的を有効に
達成できるかが課題
「背広組」の行政機関:一方で政策を法令・計画・予算の枠内で実施。他方で新しい政策・法令・
計画・予算の立案→官僚制組織の理念型や原理から離れる「柔らかい組織」(例:プロジェ
クトチーム)
条件依存論:組織とその課題・環境条件との対応関係=(contingency theory)
★「官僚制組織はその課題・環境の差異に対応して」、「意思決定権を組織内のどこに賦与するかと
いう分業構造の編成・形成」(=所掌事務の分掌(水平的。分業構造の編成)と専決権の割付(垂直
的。分業構造の形成))と、「組織内情報伝達経路の形成」(=情報伝達の経路数、情報伝達の方
向性、情報伝達経路の太さ)を操作
2 所掌事務の分掌構造と情報伝達の経路
長官―次官・次官補、局長―次長・審議官、課長―課長補佐。後者はスタッフかラインの長か
階層制構造の基礎単位組織(係か班)の内部組織の編成
欧米:1人1人の職員単位で事務を分掌。定員削減は所掌事務の整理縮小と連動
日本:係の所掌事務に係員全員が連帯責任。所掌事務の整理縮小なしで定員削減可
部局間調整:共管競合事務を極少化するために目的の同質性にもとづく分業を基本に縦割りの組織
を編成<上級機関による指揮監督権にもとづく調整=フォーマル組織の命令系統と、<部局間の
合議による自主的調整=インフォーマルな調整方式 。しかしさらに複雑化するのが↓<
横割りの組織と縦割りの組織の調整
★横割りの組織:「本来ならばそれぞれの縦割りの組織のなかにその中心業務に付随して分散し
ているはずの共通事務を、作業方法の同質性にもとづく分業の原理にしたがって寄せ集め、こ
れをひとつの単位組織に編成したもの」=総括管理機能(財務・文書・人事など)
「日本の行政機関の単位組織は上級機関の直接の指揮監督に服しているというよりも、官房系統組
織の濃密な統制に服している」。課は局の総務課に、局は大臣官房各課に、省は内閣官房・総理
府各庁・大蔵省主計局等によってより一層統制される。官房系統組織はスタッフ?
ラインとスタッフ:「現実の官僚制組織では、助言・勧告権しかもたないスタッフ組織は十分な機
能を発揮することができなかったからこそ、これに代わって、統制権をもつ総括管理機関が発達
し、長の管理機能を代行するようになった」
☆再定義「組織にとって第一義的な業務の遂行を任務とするものをライン、このライン系統組織
に助言し,これを補助し、あるいは統制することを任務とするものをスタッフ」
3 専決権限の割付構造と情報伝達の方向性
事例:人事院給与局給与第一課第二班の所掌事務(官民給与の実態調査の事務)・主査・担当課長
補佐・総括補佐・課長・次長・局長・事務総長・人事官会議の各々の職務・職責=縦の系列
での分業の問題↓
@日本の組織法令は縦の系列の分業については沈黙。内部管理規則としての専決規程あるが不明細
A 階層制構造の双方向性:「専決権の委譲の構造を調べてみても、官僚制組織の意思決定が実際に
どのようにおこなわれているのかは、依然として分からない」
局長・課長・課長補佐。中間者は,「上からの情報を選別し分解し翻訳する責務と、下からの
情報を選別し集約し翻訳する責務を有する」=ダンサイアの「3人1組論」
指令型と決裁型:最終決定権の所在以上に決定案件の発案者と最初の決定過程始動者が重要
Bルールの制定(法令)と、指揮監督(命令)の2段階構造:
法令「国会の制定する法律と国会以外の国の諸機関の定める命令(内閣の政令、内閣総理大臣
の総理府令、各省大臣の省令、並びに最高裁判所・会計検査院・人事院・各行政委員会
などの規則)
命令:行政規則(行政機関の上級機関が下級機関の職員の執務を規律するために定めたもの=
訓令・通達・通知・要綱・要領等。国民に対する拘束性なし。法令の解釈基準・運用基
準)と上司の支持・命令(「裁量の余地を絶無にすることは不可能であるからこそ、上
司には指揮監督権が賦与され、部下の執務状態を監視し審査し続けることが義務づけら
れている」)
ペンディックスの指摘:規律―裁量、服従―自発の均衡が問題の核心